裁断の不可逆性と原本の価値を見極める重要性
書籍の電子化(特に高速ドキュメントスキャナーを用いたスキャン)を行う場合、本の背表紙を切り落として1枚1枚バラバラの紙に分離する「裁断処理」が基本となります。一度裁断された書籍は、特殊な製本技術で再製本しない限り、元の本としての形状に戻すことはできません。この「不可逆性」をしっかりと理解しておくことが何よりも重要です。
したがって、以下のような書籍は絶対に電子化(裁断スキャン)に出さないよう細心の注意を払いましょう。
- 絶版や初版本などで、二度と買い直すことができない歴史的・金銭的価値の高い貴重本
- 著者直筆のサインや特別な献辞が入っている思い入れの深い本
- 革装丁や箔押し、特殊な布クロス装丁など、装丁美術そのものを鑑賞したい愛蔵本
- 後から古本市場で高額売却することを想定している美術全集やコレクターズアイテム
一般に流通している文庫本や実用書、買い直しが容易なマンガなどは電子化に最適ですが、世界に一冊しかない宝物は大切に紙のまま保存することをおすすめします。
スキャンに適さない特殊装丁・紙質と事前準備のチェック項目
スキャン機器の特性上、どのような本でも綺麗に読み取れるわけではありません。スキャン代行業者に発送する前、あるいは自分でスキャンを行う前に、本棚から取り出した書籍の状態を1冊ずつ点検しましょう。
具体的には以下の点に留意が必要です。
- 極端に薄い紙質の書籍: 辞書、六法全書、聖書などに使われている超薄紙(インディアペーパー)は、スキャナー内部で複数枚同時に吸い込まれる「重送(ダブルフィード)」や紙詰まり、破れが発生しやすいため、一般のスキャンコースでは受付不可となっている場合があります。
- 飛び出す絵本や変形本: 仕掛け絵本や型抜き本、極端に細長いパノラマ本などは自動給紙スキャナーに通すことができません。
- 付箋・しおり・ハガキ・帯の除去: ページに貼られたままの付箋やインデックスシール、挟み込まれた愛読者カードなどは、スキャン時に巻き込まれて機器故障の原因となるため、代行業者側で機械的に破棄されるのが一般的です。重要なメモが書かれた付箋などは、発送前に必ず自分で剥がして保管しておきましょう。
- ドッグイヤー(ページの折り目)の修正: ページの角を三角に折ったままスキャンすると、折り返された部分が影になったり、裏側の文字が隠れた状態でスキャンされてしまいます。事前に折り目を丁寧に伸ばしておくことで、仕上がりの美しさが格段に向上します。
著作権法上の私的使用のルールを厳格に守る
書籍の電子化を行うにあたって、絶対に無視できないのが「著作権法」の遵守です。現行の日本の著作権法第30条において、「私的使用のための複製」として、個人的にまたは家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用することを目的とする場合、本を購入したユーザー自身が書籍を複製(スキャン)することは合法と認められています。
しかし、作成した電子書籍データ(PDF等)を以下のように扱うことは明確な違法行為となります。
- 電子化したデータをインターネット上のWebサイト、SNS、ファイル共有ソフト等にアップロードして不特定多数に公開すること
- 電子化データを友人や会社の同僚にコピーして配布すること
- 電子化データをオークションやフリマアプリ等で販売すること
また、自炊代行業者へのスキャン委託に関しても過去に法的な判例が存在するため、信頼できる適法な規約を明記している代行業者を選定し、あくまで自分自身の個人利用の範囲内にとどめておく節度ある運用が求められます。
スキャン後の電子データ(PDF)の確実なバックアップ管理
せっかく大切な蔵書を電子化しても、保存していたパソコンのハードディスクがクラッシュしたり、タブレット端末を紛失・水没させてしまっては、大切な知識資産が一瞬で失われてしまいます。原本を裁断・溶解処分した後は、電子データそのものが唯一の正本となります。
万が一のデータ消失事故を100%防ぐために、電子書籍データは「3-2-1ルール」に従って多重バックアップを構築しましょう。すなわち、「3つのコピーを保持し」「2種類の異なるメディア(PC本体ストレージと外付けポータブルSSDなど)に保存し」「1つは別の場所(Google Drive、Dropbox、OneDriveなどのクラウドストレージ)に保管する」という方法です。クラウド上にバックアップがあれば、外出先で端末が壊れても新しい端末ですぐに読書環境を復旧できるため、生涯にわたって安心してデジタル読書生活を楽しむことができます。